ジョージ・ソロスという名前は、世界中でいろいろと連想されます。ある人にとっては、ビジネス手腕を兼ね備えた慈善活動家であり、ある人にとっては政治操作をする人物でしょう。しかし、85億ドルの資産を操作するこの男の実際の正体とは?
生い立ち
ジョージ・ソロスは、ハンガリーのブタベストでジェルジ・ソロスとして生まれたユダヤ人です。両親はティヴァダル・ソロスとエルジェーベト・ソロスで比較的裕福な家庭でしたが、第二次世界大戦で生活は一変しました。大量虐殺に脅かされたソロス一家は、想像を絶する苦難を生き抜いてきました。ティヴァダルは家族を救うために、自分たちがキリスト教徒であると偽り、偽造書類を入手しました。この体験が若いジェルジに大きな影響を及ぼします。彼は、後に"ありのままではなく、ありえるとおりに" という認識がこの時に身に付いたと述べています。
戦後、ソロスはロンドンに移り、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)に入学しました。ここで有名な哲学者カール・ポパーの著書に出会い、社会と経済に対する彼の視点が大きくなっていきました。
金融業界でのキャリア
1952年にLSE を卒業すると、ソロスはロンドンのシンガー&フリードランダー社で自身のキャリアを築きはじめました。1956年には、米国に移り、ニューヨークのウォール街にある欧州証券を専門に扱う投資銀行F.M.メイヤーに転職しました。1959年にArnhold & S. Bleichroederに入社して副社長にまでなりました。1963年までには、10年後には 'ソロス・ファンド・マネジメント'となる'ダブル・イーグル'という自身の最初の投資ファンドを設立しました。この時点で、ソロスはArnhold & S. Bleichroederを退職して、自身のファンドに専念するようになりました。
彼の指揮の下、'ソロス・ファンド・マネジメント' は大きく成長していき、'クォンタム・ファンド' と改名され、投資業界での富と名声を手にしました。1992年9月、ジョージ・ソロスは英ポンドを'潰した'ことで業界での頂点に立ちました。 現在、'ブラック・ウェンズデー' として知られる手法で、ソロス氏は数十億ドルの利益を生み出し、世界的に注目を集めました。彼は、'イングランド銀行を潰した男'と称され、業界だけでなく、一般大衆でも注目を浴びました。
当時のヨーロッパは、欧州通貨制度(European Monetary System)にある為替システムの欧州為替相場メカニズム(European Exchange Rate Mechanism:ERM)が機能していました。このシステムは加盟国の通貨が一定の変動幅で維持されていました。イギリスのスターリング・ポンドもこのシステムに組み込まれており、ドイツマルクに対して一定の制限内で維持することが決まっていました。しかし、経済的圧力と為替市場の投機が高まる中、この確立されたレートの維持が問題でした。
ソロスはこの状況に投機のチャンスを見出しました。クォンタム・ファンドは積極的なポンド売りで通貨への圧力を大きくしました。これは、'ベアレイド' と呼ばれるもので- ソロス氏と彼のチームは、実際には保有していない通貨を売ってから、低い価格で買戻し、その差額で利益を生み出そうとしました。
1992 年 9 月 16 日の'ブラック・ウェンズデー' では、イングランド銀行が利上げや為替介入をして何度かポンドを支えようとしましたが、ポンドの切り下げとERMからの離脱発表をしなくてはならなくなりました。これにより、イギリス通貨はドイツマルクに対して15%の下落、ドルに対して 25%の下落となりました。 ジョージ・ソロスは一晩で約10億ドルを稼いだと言われる歴史上最も有名な為替投機家の一人となり、クォンタム・ファンドは最も成功したヘッジファンドの一つになりました。
ソロスとクォンタム・ファンドの収益方法
ソロスの'ファンダメンタル原理'の一つは、非合理的な不安定で予測不能として市場を捉える‘反射的理論' です。つまり、短期的な価格変動や不安定な市場で積極的に投機戦略や裁定取引を用いています。ソロスとクオンタム・ファンドは、株式、債券、コモディティ、通貨、金融派生商品の購入などのさまざまな投資ツールや手段を積極的に用いて収益をあげています。例えば、ソロスは1990年代後半にテクノロジー企業の株式に投資して、2000年の'ドット・バブル' が弾ける前に売り抜けて収益をあげました。
しかし、投資は常にリスクが伴ない、最も成功した投資家ですら失敗することがあります。ジョージ・ソロスもまた、その1人です。彼とクォンタム・ファンドに大きな利益をもたらした取引もあれば、大きな損失をもたらした取引もあります。それでも、ソロスは歴史上最も成功した影響力のある投資家の一人としての地位を維持しており、彼の戦略やアプローチは金融業界全体に影響を及ぼしています。
'イングランド銀行を潰した男' から慈善活動へ
ジョージ・ソロスは単なる伝説的なビジネスマンではありません。彼の関心はウォール街をはるかに超えて広範囲へ及んでいます。慈善事業に積極的に携わり、莫大な財産でさまざまな慈善事業を支援しています。1979年にソロスが設立したオープン・ソサエティ財団(OSF)は世界的に大きな助成団体の一つとなりました。同財団は世界120カ国以上でプロジェクトを実施しています。そのプロジェクトのいくつかをここで紹介します:
– 教育とサイエンス: 貧困家庭の子どもたちから学術研究や大学までの支援目的のプログラムで幅広く援助しています。1991年にソロスはブダペストにある中央ヨーロッパ大学の設立支援をしました。
– 人権保護: OSFは、移民、難民、LGBT+コミュニティなどの社会的弱者の権利を支援する団体や活動に資金援助をしています。
– 司法と法執行: 汚職撲滅、法制度と刑事司法の機能向上を目指すプロジェクトを支援しています。
– ヘルスケア: OSFは、HIV/AIDS、結核、薬物中毒など深刻な健康課題に取り組んでいます。
– 報道の自由: 検閲や迫害に直面している独立系メディアやジャーナリストを支援しています。
上述のOSFの目的の一つは、経済移行での人権や民主主義が脅かされている地域で人権保護と政治的変化に影響を与えようとする市民団体を支援することです。このようなソロスの積極的な取組で、さまざまな陰謀論の中心人物となってしまいました。こちらのビリオネアは度々、いろいろな国でカラー革命や大規模な抗議活動を企てた人物として非難されています。しかし、多くのメディアで報じられているように、ソロスや彼の財団が直接的に関与したり、企てたりはしていません。彼に対する非難に関して言えば、OSFの活動を自らの権力に対する脅威とみなしている多くが権威主義的な政府や政治勢力です。
例えば、2018年、OSFは、国家安全保障を損ない、内政に干渉しているとして財団を非難したヴィクトル・オルバン政権からの絶え間ない圧力と敵視されたことにより、ハンガリーでは活動停止を余儀なくされました。ソロスとよく関連付けられる他の出来事としては、ジョージア"バラ革命" (2003)、ウクライナの"オレンジ革命" (2004-2005)、キルギスの"チューリップ革命" (2005)があります。
ソロスの著書と警告
ジョージ・ソロスは投資家や慈善活動家だけでなく、素晴らしいコメンテーターで、思想家でもあり、作家でもあります。彼には数冊の著書があり、数多くの記事やエッセイを執筆しています。その中で、ソロスは経済および金融傾向の分析と政治的および社会的問題を組み合わせいるため、専門家と幅広い読者を魅了しています。
著書:
– "ソロスの錬金術", 1987 – この著書で、ソロスは"反射性の理論"を含め金融と経済の見解を概説しています。この理論は、証券の売買が将来の価格に対する期待に基づいて決定されます。この期待は、純粋に心理的なものであるため、(主にメディアを通じて)自分に有利になるように影響を与え、与えるべきものです。
– "民主主義の保証", 1991 - この著書で、ソロス氏は共産主義崩壊後の東欧における民主主義への移行を支援した自身の考えと経験を述べています。i
– "グローバル資本主義の危機", 1998 - この著作でソロスは、1997年から1998年にかけての金融危機と世界にもたらした影響を分析しています。
– "EUの悲劇:崩壊か、復活か?", 2014 - この本はソロスとジャーナリストのグレゴール・シュミットの対話で、EUの将来と世界政治におけるロシアの役割について論じています。
経済、政治、社会におけるソロスの思考過程と見解を反映した名言です。ここで、いくつか有名なものを紹介します:
– "私は人の逆をいく逆張りを恐れない"
– "市場価格は未来に対する偏った見方を示すという意味で常に間違っている"
– "市場は私たちの集合意識を反映させたものだが、完璧からは程遠い"
– “自信に満ちた小さなポジションには意味がない”.
– “私がお金持ちなのは、間違っている時を知っているから”.
– “システムが複雑であればあるほど、エラーが多くなる”.
– "金融市場は、どんなに予想しようとしても多くの想定外が常に起きる"
– "ほかの人にとって、間違いは恥じだが、私にとって自分の間違いを認めることは誇りである"
– "私が善いおこないをすることは、私にとってより満足できることだから"
– "政治的な失敗のほとんどと言わないまでも、物事の仕組みに対する誤解と誤った説明が多くの失敗の原因です"
– "投資が娯楽なら、楽しんでいるなら、おそらく儲かっていません。いい投資はつまらないから"
– "重要なのは正しいとか間違っているかではなく、正しいときにどれだけ儲け、間違っているときにどれだけ損をするかだ"
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