EUR/USD: ドルにとっては悪かった一週間
● 先週のメインは、3月7日(木)の欧州中央銀行 (ECB)の理事会でした。予想どおり、欧州中央銀行は現行の金融政策を続行、金利は4.50%の据え置きです。この決定により、望ましい範囲にインフレ率をもっていくという決意が再確認されました。ECB の一貫したインフレ率目標は2.0% であり、現在のインフレ率は2.6%です。
ANZ銀行の分析によると、第2四半期はユーロの利下げが予想されます。"現在のECBのガイダンスにおける私たちの解釈では、タカ派が主流で利下げに踏み切る前により詳細な賃金上昇データを待ち望んでいる。私たちは6月にはコンセンサスが取れると考えている" とANZのエコノミストは著しています。
ECB理事会メンバーでリトアニア中央銀行のゲディミナス・シムクス総裁もこの予想と同じことを3月8日(金)に述べていました。シムクス総裁は、"6月に利下げに踏み切る可能性が高い緩和的金融政策に移行する準備はすべて整っている。4月になることも否定はできないが、可能性は低い" と述べています。また、一度に25 ベーシスポイント以上の利下げをする理由がないとも述べていました。
● FRBは、通常、ECBよりも積極的で、金利変更もより頻繁に大きくなるため注意が必要です。これは、この10年の統計をみれば明らかです。コメルツ銀行のアナリストによると、両方の中央銀行が同時に緩和サイクルに踏み切った場合、ドルレートはユーロより急落する可能性があり、EUR/USD 相場の上昇支持となります。
しかし、今回のサイクルがどのようになるかは不明です。CMEのFedWatchツールでは、6月のFRBの利下げ確率は56% です。しかし、ジェローム・パウエルFRB議長は3月6日‐7日の米国議会の講演で規制緩和政策は"今年のある時点"になると曖昧に述べています。
クリーブランド連銀のロレッタ・メスター総裁の発言はより注目されました。欧州経済金融センター(European Centre for Economics and Finance)で、メスター総裁は今年のインフレ率が安定して低下していることに懸念を述べました。つまり、メスター総裁の見解は、現行の5.50%水準の維持が適切ということです。クリーブランド連銀のメスター総裁は、また、経済状況が予想どおりであれば、年末に向けての利下げの可能性は高まるとも述べました。
● 先週発表されたマクロ経済統計についてのユーロスタットの最終評価では、ユーロ圏経済が2023年末にかけて3ヵ月間、四半期ベースで0% 成長ということでした。前年同期比ではGDPが0.1%増加でした。両方とも速報値と市場予想に一致したため、相場には影響しませんでした。
先週のドル安は、議会証言でジェローム・パウエル議長が"味気ない" 発言をしたことだけが原因ではありません。米国のマクロ経済報告は比較的低調でした。例えば、 2月のISMサービス部門購買担当者景気指数は53.4 ポイントから52.6 ポイントに落ち込みました。1月の製造業受注も3.6%の減少で、予想の2.9%を下回りました。先月の米国雇用統計(JOLTS)は886.3万件と前月の889.0万件から減少、週終わりの3月2日の失業保険新規申請件数は21.7万件と予想の21.5万件を上回りました。これら全てのことから、EUR/USD は2月20日から続いていた1.0800-1.0865の狭い取引幅から抜け出し、1.0900 の高値まで上昇しました。
● 3月8日(金)に発表された労働市場統計は、市場の反応がやや難解であったとしても、ドル支えとなる可能性もありましたが、実現しませんでした。その一方で、非農業部門の新規雇用者数 (NonFarm Payrolls) は、前回の22万9,000人と予想の19万8,000人を大幅に上回りました。通常なら、このような指標はEUR/USD を押し下げます。ところが、今回は、逆に上昇しました。これは、失業率が3.7%から3.9%(予想は3.7%)に上昇したことと、平均時給が0.5%(前月比)から0.1%(予想は0.2%)と急激に下がったことが関連しています。この2つの指標は、NFPのプラス効果を上回ったようです。市場関係者は、利下げに差し迫って踏み切る追加議論があると判断したため、EUR/USD は1.0980に急騰しました。
● その後、この急騰は落ち着き、EUR/USD の終値は1.0937でした。3月8日(金)時点の短期的見通しでは、アナリストの35% がドル高支持でこのペアの下落予想である一方、65%がユーロ高予想です。 D1チャートのトレンド系とオシレーター系では、両方とも緑が100%ですが、オシレーター系では4分の1が買われ過ぎ圏内です。 このペアの直近のサポートレベルは、1.0845-1.0865 圏内に続き、1.0800、そして、 1.0725、1.0680-1.0695、1.0620、1.0495-1.0515、1.0450です。レジデンスレベルは、1.0970-1.1015前後、 1.1050、 1.1100-1.1140、 1.1230-1.1275と上がっていきます。
● 来週は、かなり波乱が予想されます。3月12日(火)は、ドイツと米国の消費者物価指数(CPI)の発表があり、大きなボラティリティが予想されます。3月14日(木)は、小売売上高と米国の生産者物価指数(PPI)の発表があります。今週の取引最終日の3月15日(金)には、ミシガン大学消費者信頼感指数の発表があります。
GBP/USD: ポンドにとって良かった一週間
● 週の始値が1.2652 だったGBP/USD は、金曜日には1.2893 の直近高値となり、241 ポイントの上昇で、中期的横ばい幅の1.2600-1.2800を突破しました。この推移の理由の1つが、前述のドル安です。2つ目が、イギリスのプラスの経済統計です: 建設業PMIは48.8から49.7へ上昇しました。不動産セクターのこの部門がほぼ低迷を克服したことが示されており、最終的には国内経済を大きく支えることになります。
● 3つ目の理由もあります。先週、ポンドにとっての重要なイベントが3月6日に発表されるイギリス国内予算であると注意を呼びかけました。この選挙前の予算は、2024年米ドルに次いでG10の中で2番目に成功しているイギリスポンドに大きく影響を与えます。
ジェレミー・ハント財務大臣は春の国家予算を公表して、長期計画であることを述べました。ハント財務大臣は18億ポンドの給付金や補助金のほかに、生物医学分野、自動車製造、航空宇宙生産の研究開発資金として3億6000万ポンドを割り当てる述べました。政府は部分的な減税でイギリス国内世帯も支援します。また、国民の繁栄を確保するために、積極的に経済成長を促します。具体的には、燃料とアルコールに対する関税の一時的な引き下げを続けることです。
ハント財務大臣は、年末までにインフレ率は2.0%に下がり、今年のイギリスのGDPは、0.8%に成長すると述べました。全体的に、選挙前恒例の財務大臣が示した数字と公約は非常に印象的であり、ポンドはドルに対してかなり挑戦しました。
●しかし、このポンド高は続くのでしょうか? HSBCのエコノミストは、イギリスがインフレと成長を兼ね備えた厳しい局面のままだと述べています。このため、イングランド銀行(BOE)が他の中央銀行と比較して最大限にタカ派的スタンスをとることには限界があります。イングランド銀行がハト派的なスタンスを強めるようであれば、ポンドは今後数カ月で大きな下落圧力に直面する可能性があります。
● GBP/USD の先週の終値は1.2858でした。短期的なアナリスト予想では、次のように分かれています:大半 (60%) が下落予想、20%が上昇予想、20%が中立予想です。D1チャートのトレンド系とオシレーター系 の状況はEUR/USDに反映しています: すべてが上昇を示していますが、オシレーター系の25%は、このペアの買われ過ぎを示しています。 このペアが下落すれば、サポートは1.2800-1.2815、1.2750、1.2695-1.2710、 1.2575-1.2610、1.2500-1.2535、1.2450、1.2375、1.2330となります。上昇傾向となれば、レジスタンスレベルは1.2880-1.2900、1.2940、1.3000、1.3140で直面します。
●3月13日(水)に、2024年1月のイギリス の GDPデータが発表されます。イギリス経済は12月のマイナス0.1%から一転して0.2%の成長が見込まれており、ジェレミー・ハント財務大臣の楽観論が裏付けられることになるでしょう。そのほかにイギリス経済に関するマクロ経済統計の来週の予定はありません。
USD/JPY: 円にとっては素晴らしい一週間
● 先週のポンドがとても良かった1週間なら、日本円はシンプルに素晴らしい1週間でした。USD/JPY は、3月8日(金)に直近安値146.47 で、ドルに対して360ポイント以上の上昇でした。
ドル安に加え、日本銀行(日銀)が近く金融政策の正常化を決定するのではないかという噂も円高にさせました。ロイターは関係者筋から"春闘 [3月13 日] の結果が良好であれば、日本銀行は4月まで待つことなく"マイナス金利から脱却して、日銀が"早ければ3月にもマイナス金利を終了させる方向に傾いている"と報じました。
時事通信は、"日本銀行が今後の国債購入の見通しについて、金融政策の新たな量的枠組みを検討中である" と別に報じています。"日本銀行は"と時事通信は続けて、 "新たな量的政策を検討する一環として、イールドカーブ・コントロール(YCC)を見直す予定"とも報じました。
● つまり、3月13日(水)は、円にとって重要な日となる可能性があり、次回の日銀会合が予定されている3月19日も同様です。この日は、2016年以来の利上げに踏み切る可能性があります。しかし、フランスのナティシス銀行のアナリストは、利上げがあったとしてもごくわずかであると見解しています。"実際のところ円安は日本経済にプラスである" と同行のアナリストは述べています。"インフレ率を目標の2%に戻して、輸出を促進させる。 日本は、かなり多くの対外純資産、特にドルやユーロがあるので、円安はこれらの対外資産による円でのキャピタルゲインにつながる" 。"そのため" 、"日本が金融引き締め政策に移行することを期待すべきではない。せいぜい、政策金利が象徴的な上昇が期待されるだけだ"とナティシス銀行はまとめています。
コメルツ銀行も同じような意見で、円の可能性は限られており、特に中長期的での大幅な円高は期待すべきではないとした見解です。コメルツ銀行のエコノミストによると、日本銀行が金利の正常化をはっきり示さないことが原因だとしています。
● USD/JPY の終値は147.06でした。直近の見通しでは、コンセンサスをとるのは不可能です: 弱気が20%、同じく強気が20%、残り60% が様子見です。D1 チャートのオシレーター系では、緑は15%だけである一方、 買われ過ぎを40%示す赤が85%です。トレンド系でも比率は全く同じです: 85%対15%で赤が多くなっています。直近のサポートは、146.50、145.90、144.90-145.30、143.40-143.75、142.20、140.25-140.60です。レジスタンスは、147.65、148.25-148.40、149.20、150.00、150.85、151.55-152.00、153.15です。
● 来週の注目の予定は、3月11日(月)に日本の2023年第4四半期GDPの発表です。また、前述のとおり、3月13日の春闘にも関心が集まります。そのほかに、日本経済関連のイベントは当面予定されていません。
暗号資産: 一週間に2回の新記録
● 3月4日のビットコインは、24 時間以内に約10%上昇の$69,016の高値となりました。これは、前回の2021年11月10日の$68,917 を超えた最高値更新(最新の新記録ではありませんが) となりました。上位10位までのほとんどの暗号資産も、この1週間で10-30% の上昇を示しました。
このビットコインの急騰は、プライベートジェットで3日間のビットコインアトランティス会議に出席のため、マデイラ島に飛んだカタールのビリオネアの購入によるものです。Keychainx のCEO、ロバート・ロディン氏は、マデイラ空港で"ビットコインを永遠に変える" ものを見たと著しています。BTCマキシマリストのマックス・カイザー氏は、エルサルバドルのナイブ・ブケレ大統領がカタール首長に"起こってますよ!"と挨拶をしているビデオをシェアしました。
ロディン氏とブケレ大統領が何をしたかは正確にはわかりません。しかし、カタールがビットコインをバランスシートに加えるという話題に火をつけるには十分です。これについての裏付けはありませんが、ソーシャルネットワークでは、この件の憶測で盛り上がっています。中東の1社、もしくは2社の政府系ファンドや投資会社が密かにビットコインを買い占めているという噂が数ヶ月前から流れていることには注目できます。
史上最高値更新後のビットコインは下がり、3月5日には、先物市場で10億ドルの強制決済と共に$59,107に下落しました。 しかし、この下落はクジラが供給量を大量に買い占めたことにより、束の間であり、前回の動きに戻っただけでなく、新記録を更新しました: 3月8日のビットコインは$69,972に達しました。これは、市場関係者の多くが、$100,000 の大台を超えた上昇が続くと予想しているためです。
● トレーダーのガレス・ソロウェイ氏によると、4月に迎えるビットコインの半減は言及された数字を保証するわけではありません。ソロウェイ氏は、米国連邦準備制度理事会の金融政策が決定要因であると明言しています。FRBが積極的なインフレに対して消極的であれは、高いインフレ率を支えることになり、ビットコインの上昇トレンドは継続する可能性があります。"流動性が多くなれば(そうなることは確かですが)、2024年のビットコインは$100,000まで上昇する " とソロウェイ氏は著しています。ただ、この丸の数が増える過程での短期的な弱気調整は否定できません。
●JPモルガンのエコノミストも半減がビットコイン相場の急落を引き起こす可能性があることについて考察しています。6.25 BTC から3.125 BTCへのアルゴリズムによる報酬の引き下げは、マイニングの収益を引き下げることになります。このことから、シニアアナリストのニコラオス・パニギルツォグルー氏が率いるJPモルガンのエコノミストは、半減後に$42,000まで の下落予想をしています。"ビットコインのマイニングコストは、経験上から安値となる" とJPモルガンの報告書にはあります。"半減後、この価格基準は$42,000になる" 、"これは、4月にある半減の興奮が収まれば、引き寄せられる価格水準でもあるというのが私たちの考察である" とJPモルガンのエコノミストは述べています。
●よく知られているStock-to-Flow (S2F)モデルによると、ビットコインは蓄積段階から成長段階に移行しました。蓄積段階は、比較的価格上昇やボラティリティ、それに調整も小さく、完了したサイクルでの最大ドローダウンが22%を超えないことが特徴です。成長段階では状況が異なります。過去のデータによると、新高値の動きへ向かう中でのドローダウンは36%から71%です。JPモルガンは、ビットコインが$42,000まで下落すると予想しています。現在の相場では、この調整は36-40%前後で、この範囲での下値支持と一致します。ただ、70%の調整は大幅下落につながる可能性もあります。
どうして、このようなことが起きるのでしょうか?まず、収入が半減するマイナーは、運営をなんとか回すために持ち分を売り始めるでしょう。そして、利確のために機関投資家や短期的投機家がこれに加わります。同時に、ストップ注文が執行され、相場は雪崩のように急落します。ストップBTC-ETFに資金を預け入れている投資家も、この"暗号資産-下落"に加われば、下落幅は想像を絶するかもしれません。1月-2月かけて、BTC-ETFはビットコイン全体の投資の75%を集めているのことは注目です。そのため、 パニック心理がこれらのファンドの預金者に影響を与えないという保証はありません。
● しかし、ビットコインの調整がどんなに大きくても、多くのアナリストの見解では、ビットコインは、長期的な上昇トレンドのままです。"ビットコインゴールドラッシュ時代だ。2024年1月に始まり、2034年11月まで続くだろう" というのがマイクロストラテジーの創設者マイケル・セイラー氏の意見です。セイラー氏の計算では、それまでに全コインの99%を放出する "成長段階" の幕開けです(BitcoinTreasuriesによると、現在の時点で、既に93.5% 放出されている)。
セイラー氏の意見では、現在、スポットBTC-ETF に興味を持っている資産運用会社は10-20%に過ぎません。 将来的に現在の障害が取り除かれれば、この数字は100%近くなるでしょう。 "銀行、プラットフォーム、プライム・ブローカーを通じて[マネージャ]がBTC を購入すれば、彼らは1時間で5000万ドルを使うだろう"とセーラー氏は述べています。 また、"ビットコインが金を超え、S&P500のETFよりも取引される日が来る"と確信もしています。
● 今後15年間で、ビットコインは64倍に値上がりして、1063万ドルに達する可能性があります。この予想をしたのは、べき乗則モデルを使ったジョバンニ・サントスタシ教授です。サントスタシ教授によると、このモデルは暗号資産の価格変動について、長期的には明確で予測可能なシナリオを示します。しかし、メディアが主に注目する短期では、気配値が無秩序となります。有名なPlanB のS2Fモデルと違うところは、べき乗則は指数ではなく対数であることです。言い換えれば、ビットコインの価格は時間の経過とともに常に上昇すると期待できません。サントスタシ教授の計算では、2026年1月にデジタルゴールドは$210,000のピークを迎えた後は $60,000に下落して、波状に1063万ドルまで上昇します。
(参考: べき乗則の関係は、2つの数の間の数学的な関係で、これら2つの初期値に関係なく、一方の相対変化が他方の比例相対変化につながる。この法則で、地震が起きる間隔から株式市場の変動まで、幅広い自然現象であらわされている)。
●3月8日(金)の晩、現在、BTC/USD は、$68,100前後で取引されています。Crypto Fear & Greed 指数は、80から81ポイント、やや上昇して、非常に貪欲圏内です。時価総額は2兆6,000億ドル(1週間前の2兆3,400億ドルから上昇)で、ビットコインドミナンスは52%近くになり、その時価総額は1兆3,500億ドルを超えました。これは、マレーシア、インドネシア、ベトナム、タイ、UAE、メキシコなどの多くの国の法定通貨の時価総額を上回ります。数日前のBTCは、ロシアルーブルの時価総額を上回り、スイスフランに次いで、世界通貨ランキングで14位でした。 ビットコインがルーブルを上回ったニュースの中、ウラジーミル・プーチン大統領がサトシ・ナカモトであるというジョークがインターネットで溢れました。イーサリアムは28位で、チリのペソよりは良いパフォーマンスでしたが、トルコ・リラほどではありませんでした。
貴金属や企業を含んだ時価総額資産の総合ランキングでは、ビットコインが10位です。暗号資産批判で知られるウォーレン・バフェット氏のバークシャー・ハサウェイ社を超えていますが、メタほどではありません。現在のトップ3 は、金、マイクロソフト、Appleとなっています。
NordFX Analytical Group
注意: この内容は金融市場への投資推奨やガイドラインではなく情報提供のみを目的としています。金融市場の取引には、リスクが伴うため入金した資金のすべてを失う可能性もあります。
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